ご覧いただきありがとうございます。薬剤師まさです。
慢性骨髄性白血病って聞いたことがありますか?よく言われる「白血病」を分類すると 「急性リンパ性白血病:ALL」、「慢性リンパ性白血病:CLL」、「急性骨髄性白血病:AML」、「慢性骨髄性白血病:CML」 に分けられます。またその疾患でもstageのような分類がありさらに細分化されています。そんな白血病の1つ慢性骨髄性白血病:CMLについてまとめました。
慢性骨髄性白血病
慢性骨髄性白血病とは
造血幹細胞に異常が起こり、がん化した血液細胞が無制限に増殖することで発症します。検査値の異常として最も目立つのは白血球の増加ですが、同時に貧血や血小板数の増加などを認めることもあります。慢性骨髄性白血病は血液のがんの中でも比較的ゆっくり進行する種類の1つです。
その造血幹細胞に異常が、遺伝子の組み合わせミス(9番染色体と22番染色体が組み間違える)によって生じます。この9番と22番の合体遺伝子をフィラデルフィア染色体と表現します。このフィラデルフィア染色体は爆発的に使いものにならない白血球を猛烈に作り出すスイッチの役割を持っています。
じゃあこれ作らないようにすれば良くない?ということで薬になりました。
参考文献:がん情報サービス
慢性骨髄性白血病の治療目標
ではこのフィラデルフィア染色体の数が減っていれば、増殖のスイッチが押せなくなるため健康の状態を維持することができますよね。正確に言うとフィラデルフィア染色体になったことでスイッチを入れる本当の遺伝子であるBCR/ABLという値が消えれば根治ではないか?と考えられています。こんなイメージです。
慢性骨髄性白血病治療はマラソン?
慢性骨髄性白血病は現在、一生飲み続けるということが前提でお話しされております。中止しても大丈夫かもしれないけど、まだまだ大丈夫な人はこんな人・こんな条件というのが定まっておりません。また原因がわかって薬が出ている以上、すぐに効果発揮するかと言われるとそうではありません。1年かけて深い寛解に入れていきます。
…講演で使用した手作り作品で失礼します。
目標値:MR4.5未満
血液の腫瘍を測定することは、事実上不可能であるため、悪い遺伝子(BCR/ABL)を測定して現在の状態を把握します。日本の企業が開発した「Major BCR-ABL mRNA」という検査が日本国内で保険適応内で使用することができますが、世界基準でみてもめちゃくちゃ精度が高いものになっています。その世界最高の検査キットを用いても検出限界以下=MR 4.5と表現されます。なので
となっております。ちなみに数字はIS Major BCR-ABL<0.0032%がMR 4.5です。
慢性骨髄性白血病の衝撃的な報告
Long Term Adherence to Imatinib Therapy Is the Critical Factor for Achieving Molecular Responses in Chronic Myeloid Leukemia Patients.というタイトルで報告されている論文になります。簡単に言うと「ちゃんと飲まないとマジ再発するから‼」と書かれています。
正確に記載しますと、「イマチニブ療法への長期遵守(しっかりと飲む)は慢性骨髄性白血病患者におけるCR達成するための重要な因子である」と記載されています。中身を見てみると詳細がありますが、下の図がとんでもないのです。
青い線が90%以上の服用遵守、赤い線が90%未満の服用遵守。上に行くほどCR:寛解に成功した割合を示しています。90%の服用遵守率って凄くないですか?
1か月1回だけ忘れた場合=96%、2回忘れた場合=93%、3日忘れた場合…アウトですね。
私はこの論文のデータをもって初めて使用する前には服薬指導をさせていただきます。この結果をもって絶対に忘れてはいけない薬ですよ。あなたの将来のためにと伝えています。私の最も大好きで重要な論文です。
5つの治療薬
現在販売されている抗がん剤について紹介したいと思います。
イマチニブ:グリベック
慢性骨髄性白血病に対しては400㎎の服用、その他にも疾患によって複数の服用方法があります。服用時はしっかりと水分を取りましょう。少量の水分で摂取する場合、消化器症状が出現することがあります。
≪ここが凄いぞグリベック≫
- 副作用のモニタリングが唯一血液濃度で確認することができる
- 唯一ジェネリック医薬品が存在しており、支払額を軽減することができる
≪ここに注意する必要あり≫
【服用開始早期】吐き気や嘔吐、下痢などの消化器症状
【服用後数週間】むくみ(浮腫)、発疹やかゆみなどの皮膚症状、筋肉の痛み、肝機能障害
【全体的通して起こりやすいもの】貧血、疲労感や倦怠感、発熱
時期によって副作用の出現方法が異なります。基本的には継続服用してもらう必要が現在の医療上必要になりますので、副作用でお困りの際には必ず薬剤師・医師へご相談ください。
ニロチニブ:タシグナ
タシグナは1回400mgを食事の1時間以上前又は食後2時間以降に1日2回、12時間毎を目安に経口投与する。ただし、初発の慢性期の慢性骨髄性白血病の場合には、1回投与量は300mg服用する。食事の影響が受けやすいとされる薬剤になっておりますので、服用時間に注意する必要があります。
≪ここが凄いぞタシグナ≫
- 現在、タシグナはグリベックに比べ治療成績が優れている
- 第二世代で唯一小児にも適応を取得している
≪ここに注意する必要あり≫
【服用開始早期】吐き気や嘔吐、下痢などの消化器症状
【服用後数週間】血糖値の上昇やアミラーゼやリパーゼといったすい臓の消化酵素の上昇があります。タシグナは糖尿病や耐糖能異常(糖尿病予備軍)の患者さんは避けることが多いです。
【全体的通して起こりやすいもの】貧血、疲労感や倦怠感、発熱
血糖コントロール不良は比較的長期間服用中に現れることがあり、気づいたら高血糖になってたこともあります。他にも血栓のリスクもあり、片方だけの足のむくみや痛み、疼痛がある場合にはすぐに医師・薬剤師にご連絡ください。
タシグナだけでなく、CMLに対する情報提供を実施しております。またアプリケーションの作成をしており、ご活用いただくのもいいかもしれません。
ダサチニブ:スプリセル
スプリセルは慢性骨髄性白血病に対して、ダサチニブとして1日1回100mgを経口投与する。Ph∔急性リンパ白血病に対して、ダサチニブとして1回70mgを1日2回経口投与する
タシグナと比較して、食事の記載がないように食事による影響がありません。また一日一回なので、飲み忘れも少なくなりそうですね。
≪ここが凄いぞスプリセル≫
- 現在、タシグナはグリベックに比べ治療成績が優れている
- 急性リンパ白血病にも効果が期待されている
≪ここに注意する必要あり≫
血液毒性と胸水です。服用してから8週間以内に起こりやすいと言われております。
【全体的通して起こりやすいもの】貧血、疲労感や倦怠感、発熱
胸水は息苦しさとして実感します。治療効果が得られるときに比較的胸水もたまりやすく、胸水をうまくマネジメントしていく必要があります。※胸水がないから効いていないことはありません。他にも間質性肺炎や心不全などといった症状も息切れが出現します。服用後、普段通りの活動において息切れがある場合にはすぐに医師・薬剤師にご連絡ください。
ボスチニブ:ボシュリフ
ボシュリフは慢性骨髄性白血病に対して、1日1回500mgを食後経口投与する
タシグナと比較して、食事の記載がないように食事による影響がありません。また一日一回なので、飲み忘れも少なくなりそうですね。
≪ここが凄いぞボシュリフ≫
- グリベックよりも治療成績が優れている
- 私的に副作用が最も少なくコントロールできると思っています
≪ここに注意する必要あり≫
下痢・悪心・嘔吐だと思います。この3つが代表的な副作用だと思います。最初は少量から初めて徐々に増やすことで出現が抑えられることもあり、変則的な服用方法を医師が推奨する可能性があります。適正使用ではないため、絶対ではありませんが、副作用出現時は一時的に量を減量し、徐々に増やす作戦で出現が抑えられます。
【全体的通して起こりやすいもの】貧血、疲労感や倦怠感、発熱
ポナチニブ:アイクルシグ
アイクルシグとして45mgを1日1回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する
≪ここが凄いぞアイクルシグ≫
- 治療抵抗性が強い遺伝子変異(T315I)に対して有効性が高い
- 急性リンパ性白血病にも適応を取得している
≪ここに注意する必要あり≫
とにかく心筋梗塞、脳梗塞、網膜動脈閉塞症、末梢動脈閉塞性疾患、静脈血栓塞栓症などの重篤な血管閉塞性事象です。非常に発症頻度が他の薬剤に比べて高く、一度アメリカでも販売を検討されているレベルです。長期的に使用する際には細心の注意をもって治療していきますが、胸痛や下肢の痛み、呼吸苦がある場合にはすぐに医師・薬剤師にご連絡ください。
どれがいいのか?
答えがありません…。
いずれの薬剤もアドヒアランスが良好であれば、ある程度の期間は治療奏功が得られます。薬剤の特徴と自身の既往歴・併存疾患と相談しながら最適な薬剤を選択する必要があります。ただどの薬剤も重要なことは
困ったことがあればすぐに薬剤師にご相談ください。
最後までご覧いただきありがとうございます。
読んでいただいた方が、より安全な抗がん剤治療を受けられるように願っています。また元気な時間を1日でも長く・楽しく・素敵な思い出を作れるよう、副作用を気にしないで生活できるように貢献できるよう情報を発信していきたいと思います。
薬剤師まさ
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