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【解説!ホルモン陽性】乳がん治療 初回治療Ver.

ご覧いただきありがとうございます。薬剤師まさです。

2014年の女性がん罹患数の中で最も多い乳がんについてまとめてみました。がん治療は近年、自分自身が持つ遺伝子プロファイルによって治療が最適化され始めています。ただ、遺伝子プロファイルがわかり、治療を開始したとしても治療薬と上手に付き合っていかなければ、期待される治療効果を受けることができません。ホルモン陽性乳がんについてまとめてみました。

芸能人の方でも乳がんになったってかた聞きよね
ブログが簡単に見れる時代だから、そういう情報も多いよね。でも乳がん治療は、自分自身が持っている遺伝情報も含め治療が大きく変わってしまうので、みんながみんなブログの通りにはいきませんよ。

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乳がんについて

乳がんとは

乳房の中にある「乳腺」にできる悪性腫瘍を指します。乳腺の中には、母乳をつくる「小葉」と、小葉でつくられた母乳を乳頭まで運ぶ細い枝状の「乳管」とに分けられます。乳がんの約95%以上が乳管の上皮細胞にできる乳管がん、約5%が小葉にできる小葉がんです。乳がんのしこりは硬く、あまり動かないのが特徴と言われております。しこりを発見したら、自己判断せず、専門医の診断を受けることが推奨されます。


乳がんのリスク因子

乳がんの原因の大多数は、女性ホルモンであるエストロゲンが乳がんの発生・増殖に重要な働きをしています。今回紹介するホルモン陽性乳がんはこのタイプに該当します。

そのため女性ホルモンの分泌に影響する環境下が、リスク因子として直接働きかけますので、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅い、授乳歴がないことがリスク要因とされています。ホルモンに曝露している時期が長い状態がリスクが上がるとされております。こればかりは自身でコントロールできる部分ではございませんよね。沢山の患者さんの特徴を集計したら、このような結果が得らえております。注意していただきたいのが、「出産歴がないから乳がんになった・初産の年齢が遅いから…・閉経の年齢が遅いから…というわけではありません。乳がんの発症自体の要因はわかっていません。」というご自身のせいではないという点です。

わかりやすく他のがんで置き換えてみると

煙草を吸っているから肺がんになる…これは、間違いですよね。吸っていても肺がんにならない人がいますから。肺がんになっている人を調査したら、煙草を吸っている人が沢山いた…これが正しい解釈ですでも肺がんの原因はわかっていない。これと同じ解釈をしていただけたらと思います。

実は自身で調整できる環境下でのリスク因子として、閉経後の肥満は乳がん発症のと関連しているの可能性が言われております。また閉経後の女性では運動による乳がんリスク減少の可能性が示されています。その他にも飲酒習慣は、乳がんのリスクが高くなる可能性が示されています。ただどんなに運動していても遺伝的な要因として、一親等の乳がんや卵巣癌の家族歴、家系内に複数の乳がん・卵巣がん患者の存在、家系内の男性の乳がん発症などもリスク因子として考慮されます。

乳がん予防として、野菜・果物・イソフラボン等が注目されていますが、十分な根拠があるとはいえません。ご注意ください

乳がん治療の種類

冒頭でもお話ししました通り、乳がんには細胞の形(遺伝子プロファイル)によって大きく異なります。その自身が持つ遺伝子の形によって治療方法が異なるため、表にしてまとめてみました。

  ホルモン陽性 ホルモン陰性
HER2遺伝子陰性

Luminalタイプ

ホルモン剤治療±抗がん剤治療

Triple negative(TNBC)

抗がん剤治療

HER2遺伝子陽性

Luminal-HER2タイプ

ホルモン剤治療±抗がん剤治療∔トラスツズマブ

HER2-enrich

抗がん剤治療∔トラスツズマブ

今回はこのホルモン陽性のHER2遺伝子陽性と陰性について紹介したいと思います。

HER2遺伝子は,上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子と類似の構造を有する癌遺伝子である。 HER2遺伝子がコードする産物(HER2蛋白)は細胞膜に局在する受容体で,チロシンキナーゼ活性を有し上皮細胞の増殖と分化に関わっている。

調べるとこんな形で書いてありますが、なんですかこれは‼?と思います。

簡単にお話しするとHER2遺伝子というのは、スイッチが押されると細胞を作るスピードを速める遺伝子です。そのHER2遺伝子の量が沢山ある=細胞を作るスイッチが沢山あるということになります。それががん細胞に細胞を作るスイッチが沢山あったらどうでしょう。がん細胞が沢山増えますよね?なので、HER2陽性かどうかというところが非常に重要です。

HER2は乳がんだけではなく胃がんにおいても重要な遺伝子型になっております。一部の肺がんや大腸がんにも見られるとされておりますがごく一部の方です。そういうところを遺伝子検査で未承認薬のがん治療へという治療に繋げているところになっております。以前まとめたものがございますので、ご参考までに

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乳がんの薬物治療(ホルモン陽性)

ホルモン陽性の乳がん治療では、必ず内分泌療法を実施します。内分泌療法とカッコよく書いてありますが、ホルモン剤治療と呼ばれれているものになっております。ホルモン剤治療は、ホルモン陽性細胞の栄養である「女性ホルモン」を抑制するために治療を行います。

女性の場合、女性ホルモンの作り方が「閉経前」と「閉経後」では合成方法が異なります。そのため、「閉経前」なのか「閉経後」なのかで薬剤が異なります。

決定的な違いは閉経前には卵巣が働くことで、エストロゲンが多く分泌されております。ただ閉経後は、卵巣の活動が低下することによってエストロゲンの分泌量が低下します。ですが、人間はとても良く出来ていて、アンドロゲンから作り替えることで補っています。このアンドロゲン→エストロゲンに変身させる成分がアロマターゼという物質になっておりますので、それを抑えてあげます。

結局は、エストロゲンを作らせないようにするのがポイントになっております。


乳がん治療(Luminal HER2(-))について

閉経前治療

LH-RHアゴニスト

先ほど示した図の3番に該当する薬剤です。

卵巣でエストロゲンを作ることを促すために、脳にある下垂体(ホルモンの作る作業を指示する指令室)の働きを抑える作用があります。閉経前の患者さんにこの薬を皮下注射すると、卵巣におけるエストロゲンの作る指示がなくなることで、体内のエストロゲン量が低下して、ホルモン依存性の乳がんの増殖が抑制されることが期待されております。(リュープリンという薬剤ですね)

選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)

先ほど示した図の1番に該当する薬剤です。

ホルモン陽性乳がんの栄養は、エストロゲンとなっております。なので、このエストロゲンが成長するように作用するところを止めてしまうことで乳がんの成長を止めてしまおうという薬剤になっています。基本的には、LH-RHアゴニストと併用して使用することが多く、エストロゲンの産生量を低下させる(LH-RHアゴニスト)+残っているエストロゲンをがん細胞に作用させないようブロックをする(SERM)となっております。wパンチですね。(タモキシフェン・ノルバデックス・トレミフェンという薬剤が該当します)


閉経後

閉経後の場合、先ほども記載した通り卵巣の活動が低下していることから、エストロゲンを別のルートから作り出します。その別ルートに必要なアロマターゼを阻害する薬剤を用います。(アナストロゾール(商品名 アリミデックス),レトロゾール(商品名 フェマーラ),エキセメスタン(商品名 アロマシン)の3種類(いずれも内服薬)という薬剤ですね)


手術が可能かどうか

基本的には取り切ることが可能であれば、手術を選択します。これは間違いなく薬物治療だけより推奨されます。手術後は、上記の薬剤が追加されます。また手術ができない場合には、上記の薬剤が最初から選択されます。原則内服期間は最低でも5年間が推奨されております。ものによっては、5年の服用に比べ10年間の内服が推奨されております。再発率を低下させる治療になっております。


乳がん治療(Luminal HER2(+))について

違いは、HER2が陽性かどうかという所になってきますので、HER2が陽性だったときに使用できる薬剤のみ紹介したいと思います。

HER2陽性時の特効薬

HER2陽性に特異的な分子標的薬(がん細胞だけ狙って治療する薬剤)として、トラスツズマブ(ハーセプチン)という薬剤が存在ます。かつてHER2は予後不良因子でありました。がん細胞の成長が促されることによって、抗がん剤の効きが悪く、治療効果を感じなかった過去を持ちます。ただトラスツズマブが誕生したことによって、劇的に治療効果が改善され現在ではなくてはならない治療薬になりました。歴史はながく最近ジェネリック医薬品も誕生した歴史を持ちます。

参考文献:HERA study Trastuzumab after Adjuvant Chemotherapy in HER2-Positive Breast Cancer

それ以外は、閉経後であればアロマターゼ阻害薬、閉経前であればエストロゲン選択的モジュレーターを使用しながら治療を実施してきます。


抗がん剤の投与について

抗がん剤の点滴治療の選択

治療選択の中に±抗がん剤治療と記載しました。抗がん剤治療の有無は病気の悪性度を見て判断します。一般的にその病勢を確認するものがKi-67やMIB-1の割合で評価されます。また腫瘍量や医師の経験に左右されるところが多い部分があります。

※Ki-67は増殖能を持つ細胞に多く存在し、発現量が多いと成長する力が強いことを示します。そのため、早く細胞を壊してがん細胞が増えないような環境作りが求められるため、ホルモン剤∔抗がん剤治療を選択することがあります。

一般的な抗がん剤治療

抗がん剤治療に用いる治療薬としては、アントラサイクリン系の薬剤がベースに入った治療+タキサン系がベースの治療を組み合わせて治療することが一般的です。

  • AC療法(ドキソルビシン+シクロホスファミド)→PTX療法(パクリタキセル)
  • FEC療法(シクロホスファミド∔エピルビシン∔フルオロウラシル)
  • FAC療法(シクロホスファミド∔ドキソルビシン∔フルオロウラシル)
  • TC療法(ドセタキセル∔シクロホスファミド)

などが用いられることが多いです。これらの副作用については、別のところでまとめたいと思います。


10年間飲み続けないといけないホルモン剤

飲み忘れとの闘い

10年間1日も休まずに飲み続けるというのは、とても困難であると思います。薬剤師である私たちは、「忘れないでくださいね」と指導しておりますが、完ぺきに飲まれている方々に本当に尊敬します。本当にすごいと思います。

※指導している私は、1回1個 毎食後(1日3個分)を5日間処方された抗生剤を残数6個という記録を打ち立てた超アドヒアランス不良患者です。

内服期間は5年間に比べて、10年が良いと言われた臨床試験ではどのくらい飲み忘れがあったのか?その結果にもよりますよね。100%飲み忘れることなく治療していたのか。

はっきりと言います‼そんなはずがありません。

どのくらい飲み忘れがあったのか‼結果の解析では、一か月のうち2日間ぐらいは忘れている人もいましたが、中には半分しか飲んでいない人もいたという報告でした。この私でも2/3は飲みましたから、めちゃくちゃ悪い状況かと思います。ですが、私たちは飲み忘れがないようにお願いをするにはわけがあります。

その理由は治療効果です

飲み忘れの割合と治療効果

5~10年頑張って治療継続してくれた8769例の乳がん患者を対象として、治療効果と飲み忘れの割合について調査を行いました。生存率を大きくわけたのは、服用率でした。

しっかりと服用で来た人たちは治療成績が、服用していない方々に比べて長く生きていたという結果が算出されました。飲み忘れがないように服用し続けることが重要かもしれません。これは乳がんだけではなく白血病治療など他のがん治療でも同様なことが言われております。


中止になってしまう主な原因

ホルモン剤の飲み忘れ(アドヒアランスの低下)は、様々な要因で誘発されていることが報告されています。

  要因
治療関連 副作用・治療の複雑さ・費用
患者側要因

治療への信頼の欠如・服用忘れ・治療効果の認識不足・高齢

医療従事者要因 患者との信頼関係が希薄・飲み忘れが再発のリスクを高める説明不足・副作用の対策について話せていない・患者との対話の時間を設けない
その他 外来に来ない・不適切なフォローアップ

と報告されている論文があります。これ、少し賛否両論あるコメントですが、医療従事者として副作用によって飲めていない現状があるのはとても悲しいと思います。長期治療のため、患者さんからも困ったら相談できるような環境づくりも重要ですね


ホルモン治療の副作用とは

ホットフラッシュ(ほてり,のぼせ)

ホットフラッシュは、顔面が赤くなったり、猛烈な発汗が起こることが言われております。抗がん剤治療によって生じる閉経状況下の方が、通常起こる自然閉経に比べて重篤度が多いとされております。タモキシフェンを服用する8割の患者で生じる副作用であり、3割は重症度が高いと言われています。自然閉経では、ホルモン補充が推奨されますが、現在抗がん剤治療でホルモン量を低下させているため、絶対にしてはいけません。

基本的に物理的な対策しかないのが現状です。

  • 引き金になる状況を避ける(ストレスを避ける、カフェインの摂取、スパイスが強い食事を避ける、高温の入浴)
  • 体温を低く保つ
  • 禁煙
  • 適正体重を保つ

ことが言われております。ストレスフリーの生活は、誰しも欲しい環境です。

血液系への影響

血液が固まりやすくなるため、足の静脈に血栓(けっせん)(血の塊)ができたりすることがあります。片方の足だけなぜか「むくむ」症状や、「片足だけ痛い」など左右差ある症状が出現したときには、必ず医療従事者に相談してください。放置すると血栓が肺に流れていき、血管が詰まる「肺動脈塞栓症(はいどうみゃくそくせんしょう)」を起こしたりすることが非常にまれにあります。静脈血栓症の既往(きおう)のある患者さんでは避けておりますが、発症しないように事前に教えていただけると助かります。

関節や骨・筋肉の症状

関節痛や骨粗鬆症のリスクが出てきます。特にアロマターゼ阻害薬を服用する場合に、出現することがあります。時間の経過により症状が改善することが多いですが、痛み止めが必要になることもあります。痛み止めを上手に使いながら対応していきますので、我慢せずに相談してください。

骨粗鬆症に関しては、年に1回の骨密度測定を行い、骨密度をチェックすることが望ましいとされております。骨を強くするためには、カルシウムやビタミンDを多く含む食品の摂取や、定期的な運動を心がけるとよいようです。

精神・神経の症状

ホルモン療法の継続により、頭痛や気分が落ち込む・イライラする・やる気が起きない・眠れないなどの症状が現れることがあります。具体的には

①抑うつ気分:気分が沈む,あるいはすぐれない日が毎日のように続く。
②意欲・興味の低下:今まで普通にできていたことがおっくうで,やる気が出ない。
③自責感:周囲の人に迷惑をかけているのではないかと悩む。
④焦燥感(しょうそうかん)または制止:イライラして落ち着かない。考えが前に進まない。
⑤倦怠感:いつも疲れを感じている。疲れやすい。
⑥集中力低下・決断困難:集中力が続かない。決断ができなくなる。
⑦食欲低下:食欲がない。食べてもおいしくない。
⑧不眠:寝付けない。途中で目が覚めて眠れない。朝早くに目が覚める。
⑨自殺念慮(ねんりょ):生きていても仕方がないと考える。

参考文献:患者さんのための乳がん診療ガイドライン

このような症状が出現し、困ったと感じたらまず医療従事者にご相談ください。様々な診療科や医療資源を使いながら対応できることが沢山あります。


最後までご覧いただきありがとうございます。 

読んでいただいた方が、より安全な抗がん剤治療を受けられるように願っています。また元気な時間を1日でも長く・楽しく・素敵な思い出を作れるよう、副作用を気にしないで生活できるように貢献できるよう情報を発信していきたいと思います。少しでも参考になった方はぜひ下のboxをポチっとお願いいたします。

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