ご覧いただきありがとうございます。薬剤師まさと申します。
題名にもあります通り、マントル細胞リンパ腫についてUpdateしてみました。この数年間で劇的な進化をしているといっても過言ではないマントル細胞リンパ腫。年齢やStage、新薬の誕生など変化があったものを中心にまとめます。
マントル細胞リンパ腫
マントル細胞リンパ腫とは
マントル細胞リンパ腫(Mantle cell lymphoma:MCLと略されることが多いです。)とは、悪性リンパ腫の種類の1つで、リンパ球の中のB細胞から発生する非ホジキンリンパ腫です。月単位で病気が進行する「中悪性度」に分類されます
マントル細胞リンパ腫の疫学
日本人でのマントル細胞リンパ腫の発症頻度は比較的低く、悪性リンパ腫全体の約3%程度です。海外ではもう少し多いですが、日本と大きく異なるぐらいの多さではありません。発症年齢の中央値は60歳代半ばで、男女比は2~3倍程度男性の方に多くなっています。
マントル細胞リンパ腫の治療
マントル細胞リンパ腫は、化学療法で治癒を得ることは難しいとされています。ほとんどの症例が進行期で診断されるため、生存率や治癒率の向上を目的として、現在もなお臨床試験が進められています。治療方法は、Stageによって異なり限局期(Ⅰ期、Ⅱ期)と進行期(Ⅱ期(腫瘍量が多い場合)、Ⅲ期、Ⅳ期)に分類され、治療方針が異なります。
限局期(Ⅰ期、Ⅱ期)
限局期の初回治療としてはIFRT(放射線治療)単独(30〜36Gy),またはIFRT(放射線治療)と化学療法との併用が推奨されるとされております。ただし、再発例がまだまだ認められていることから、限局期MCLのIFRT単独療法の治療効果には限界があるとされており、新規治療方法の開発が進められている。
進行期(Ⅱ期(腫瘍量が多い場合)、Ⅲ期、Ⅳ期)
進行期の初回治療としては、原則CD20が陽性であることからリツキシマブの投与が必ず推奨されています。また年齢や健康状態にあわせて治療方針が変わるため、治療方針は個々の状態に応じて大きく異なることが予想されます。治療方針はしっかりと医師と相談しながら決めていくことを推奨します。
現在ガイドラインで言われている内容は以下の通りです。
- 初発進行期MCLの治療として,化学療法とリツキシマブとの併用は治療効果を改善するので,リツキシマブを併用することが推奨される。
- 初発進行期MCLに対するR-CHOP療法は、推奨されるものの奏効期間は比較的短く、長期の治療成績は必ずしも改善していない。HyperCVAD/MA療法など強度を上げた治療方法では、長期治療成績の改善が得られる。65歳以下の比較的若年者では,リツキシマブと強化型化学療法が推奨される。
- 初回治療奏効後の自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は、地固め療法として実施することが推奨される。
- 65歳以上の方や自家造血幹細胞移植併用大量化学療法を含む強力な化学療法の適応がない場合は,R-CHOP(またはその類似療法),VR-CAP,BR療法が推奨される。
と、とても難しく書かれておりますのでまとめてみます。
- リツキシマブ(リツキサン)は必ず使います。
- 基本的な治療はR-CHOP療法ですが、若い方には治療強度を強くしたHyperCVAD/MA療法を推奨します
- 若い方には強い治療+自分の細胞を回収→抗がん剤→戻すという自家末梢血造血幹細胞移植が推奨します
- 年齢が高い方には、R-CHOP療法だけでなくオンコビンをベルケイドに変えたVR-CAP療法やBR療法が推奨され、自家末梢血造血幹細胞は行わない
再発時
再発・治療抵抗性のマントル細胞リンパ腫に対し、下記の治療法は高い奏効割合が報告されており、いずれも救援療法として推奨されています
- ベンダムスチン,ボルテゾミブ,フルダラビン,イブルチニブ,などの各単独療法
- 上記抗腫瘍薬とリツキシマブまたは他の抗腫瘍薬との併用療法
変わっていくマントル細胞リンパ腫治療
進行期のマントル細胞リンパ腫治療の変わっていく点
若い方には治療強度を強くしたHyperCVAD/MA療法を推奨します
いきなりこれ変わるかもしれません。
「自家末梢血造血幹細胞移植を行うことを前提としておりますが、Rとベンダムスチン併用(RB)療法とR-hyper CVAD/MA療法とを比較したSouthwest Oncology Group(SWOG)の第Ⅱ相試験では,RB療法はR-hyper-CVAD/MA療法と比べ血液学的有害事象が軽度で造血幹細胞採取効率に優れ,治療成績に差がなかった」【RB but not R-HCVAD is a feasible induction regimen prior to auto-HCT in frontline MCL: results of SWOG Study S1106.】
と言われております。PhaseⅡであったことや安全性を考慮(造血幹細胞採取効率がHyperCVAD/MA療法群において悪かった中間解析の結果)し、目的通りに達成できなかった臨床試験ではありましたが、とても大きな衝撃を与えた結果になっております。NCCNのガイドライン(アメリカのガイドライン)でも登場してきており、推奨度はやや落ちますが今後のデータ次第では大きく変わることが予想されるのと同時に、BR療法が選ばれればより負担が少ない治療かつ治療選択肢が増える未来になることが予想されます。
若い方には強い治療+自分の細胞を回収→抗がん剤→戻すという自家末梢血造血幹細胞移植が推奨します
若い方には強い治療+自分の細胞を回収→抗がん剤→戻すという自家末梢血造血幹細胞移植→リツキシマブ維持療法が推奨されていくかもしれません。
「the Lymphoma Study Association(LYSA)groupの第Ⅲ相試験の結果、自家末梢血造血幹細胞移植後においてもリツキシマブの維持療法追加は、治療成績を改善することが認められました」【Rituximab after Autologous Stem-Cell Transplantation in Mantle-Cell Lymphoma】ただし注意点があり、ベンダムスチンを含む治療を実施した場合、リンパ球の改善が遅く感染症のリスクがあります。NCCNのガイドライン(アメリカのガイドライン)でも記載がありますが、R-CHOP療法orHyperCVAD/MA療法→自家末梢血造血幹細胞移植→リツキシマブ維持療法であり、BR療法→自家末梢血造血幹細胞移植→経過観察となります。
更なる新薬も?
venetoclaxという薬剤を始め、いくつかの新規薬剤の臨床試験の報告がございます。今後の更なる治療選択だけでなく根治に向けた治療開発が発展することを願っております。
最後までご覧いただきありがとうございます。
読んでいただいた方が、より安全な抗がん剤治療を受けられるように願っています。また元気な時間を1日でも長く・楽しく・素敵な思い出を作れるよう、副作用を気にしないで生活できるように貢献できるよう情報を発信していきたいと思います。
薬剤師まさ
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