ご覧いただきありがとうございます。薬剤師まさです。
せん妄という言葉をご存知でしょうか。最近、急激に認知症のような症状が出現したり、攻撃的な態度を突然取られたり、わけのわからないことや叫び始めるといった「豹変」してしまうことに出会われた方いらっしゃいませんか?今までそんなことなかった家族や知人がそのような姿だと衝撃的ですよね。もしかしたら、せん妄症状かもしれません。せん妄についてまとめてみました。
せん妄
せん妄症状とは
せん妄は急性の脳機能障害で、意識狭窄・変容の一型であると言われております。高齢者ではしばしばみられ、器質性脳疾患、身体疾患、薬物などが原因とされています。
短期間のうちに現れる軽度から中等度の意識障害に、特徴的な幻覚、錯覚、不安、精神運動興奮、失見当識などを伴う。発症は急激で日内変動が目立ち、夜間に悪化することが多い(夜間せん妄)。
認知症とは異なるが、症状は似ており、認知症にしばしば合併する。精神活動と覚醒レベルに基づき、過活動型型、低活動型、混合型に分類されるとされております。
急激な変化がとても重要なPointかと思います。さっきまで普通に話していたのに、「豹変」したかのように攻撃的になってしまったりすることがございます。
せん妄の時に起こる変化や特徴
【意 識】
- なんだかぼーっとする
- 集中しづらい(TVや新聞が見続けられない、ご飯が食べ続けられないなど)
- 夢か現実かわからない、寝ぼけたような感じ
【睡 眠】
- 眠りが浅くなる
- 日中、眠気が続く
- 昼夜逆転し、睡眠のリズムが崩れる
【その他】
- 時間や場所がわからない
- おかしなものが見える(虫、小さな動物、小人)
というような症状が見られます。
ご家族から見ると
普段一緒に生活しているご家族の方が気づく点として
- ぼんやりしている、うとうとしている
- 話のつじつまが合わない
- 場所や時間がわかっていない
- 点滴などのチューブ類を抜いてしまう
- 怒りっぽくなったり、興奮したり、涙もろくなる
- 見えないものを見えると言ったり、ありえないことを言ったりする
- 夜眠らない、夜になると症状が激しくなる
- 以前と性格が変わったように感じる
と感じることが多いです。ですが、大丈夫な日があったり、記載されたようなことがあったりと日によって、一日の中で変化することがあります。
認知症との違い
せん妄も認知症も、「今いる場所がわからない」や「注意力障害」など共通する症状を多く呈するため、 完全に見分けることは難しいです。また実際に、認知症の既往は、せん妄発症の代表的な危険因子であることが分かっており、両者が併存する病態も多く存在します。
違いが少しでも伝わるように表を作成してみました。
特徴 | せん妄 | 認知症 |
発症 | 急激な発症 | ゆるやかに発症 |
日内変動 | 夕方から悪化 | 変動は少ない |
症状の持続 | 多くは一過性 | 症状は永続的 |
原因 | 様々な要因 | 身体疾患 |
ざっくりとしているじゃね~かと思われてしまいますが、せん妄と認知症を見分けるための最大のポイントは、「急性の発症」と「症状の変動」です。
夕方になると急に場所がわからないなどの症状が出現した。夜間は幻覚が見えていたり、謎の発言が多くなったり、歩けないはずなのに歩こうと危険行動を認めていたが、朝になると幻覚がなくなり危険行動も消失した。これらは、せん妄に特徴的な症状です。
せん妄を誘発する3つの要因
準備因子
高齢・認知機能障害・重篤な身体疾患(寝たきりなど)・脳血管障害の既往歴・以前せん妄になったことがあり・アルコール多飲(依存など)の既往歴がある方には、せん妄リスクが高い可能性があります。これのみでは、あまりせん妄にはなりませんが、準備段階であることには間違いありませんので、一歩手前だと考え常にモニタリングを行います。
直接因子
単一でせん妄症状を誘発させるものを直接因子と表現します。基本的には、この準備因子だけでもせん妄症状が誘発されることがあります。発症した際には次の内容について確認を行い要因排除を行っていく必要があります。
直接因子として
- 薬剤性(ステロイド・眠剤・鎮痛剤・抗不安薬・アルコール)
- 依存薬物からの脱却
- 脳血管障害や感染症
- 全身性疾患(貧血、脱水、手術後、がん、呼吸苦など)
が挙げられます。なんだかがん治療されていたら、とてもリスクが高い疾患であるように思えませんか?
誘発因子
単独ではあまりせん妄を誘発しませんが、他の要因と重なってせん妄を惹起する可能性があります。
- 身体的要因(便秘・疼痛・脱水・ドレーン留置など)
- 精神的要因(不安・抑うつ)
- 環境変化(入院・転居・騒音)
- 睡眠障害(不眠など)
せん妄治療
非薬物治療(第一段階)
とても大事な作業として、原因の特定と除去が最大の治療方法になってきます。認知症とは異なり、一時的な脳機能障害になりますので、可逆性の見通しがたちます。そのうえでせん妄出現時に加わった因子を取り除くことが、症状緩和に大きく影響することが考えられます。
薬物治療(第二段階)
使用する薬剤は、抗精神病薬を中心とした薬物療法が中心になってくると思います。せん妄の症状に対応した薬剤選択をしながら症状緩和・改善を図ります。
薬物治療(第三段階)
可能な限り、せん妄リスクを取り除きながらも、薬物治療をしている。それにも関わらずせん妄が改善されずに夜間に騒いでしまう症状など残る可能性があります。その場合、症状を誘発する直接因子を取り除くように継続しながらも夜間に睡眠してもらうように薬剤を調節する必要があります。
ご家族の接し方
せん妄症状を疑ったら
突然、普段一緒に生活している家族が豹変してしまうととても驚きますよね。真実とは明らかに異なることを言っている姿に怒りたくなる気持ちもあるかと思います。でもですね、怒ると逆効果です。すぐに怒りだしてしまいます。
たとえて言うならば、皆様がうとうとしている時に、「わっ‼」と驚かされたら、普段以上にびっくりしますよね。予期せぬ時に「バーン‼」とぶつかったら、普段以上に痛いですよね?せん妄症状である脳の一時的な障害というのはこのような症状です。こちらは脅かしているつもりはないのに、びっくりしたら怒りますよね?痛みのコントロールができていなければ普段以上に痛がりますよね。苛立ちがあるかもしれませんが、おちついてご説明してみてください。
具体的な注意点
以下の点に気を付けてください。
- つじつまの合わないお話があっても、無理に正す必要はありません。
- いつもどおり落ち着いた言葉かけをお願いします。
- 時間や場所がわからないようであれば、教えてあげて下さい(時計やカレンダーは有効です)。
- 日中起きていられて、夜間に眠れるような働きかけも重要です。
- けがや事故防止のため、はさみや爪切りのような危険物の持ち込みはご遠慮ください。
- 適切な刺激があることは重要です。眼鏡や補聴器がある場合はご持参ください。
なかなか、これをやることで劇的な改善が得られない可能性がありますが、ぜひ試してみてください。また看護師・薬剤師に気兼ねなくご相談していただくのもいいかもしれませんね。
最後までご覧いただきありがとうございます。
読んでいただいた方が、より安全な治療を受けられるように願っています。また元気な時間を1日でも長く・楽しく・素敵な思い出を作れるよう、副作用を気にしないで生活できるように貢献できるよう情報を発信していきたいと思います。
薬剤師まさ