ご覧いただきありがとうございます。薬剤師まさです。
突然、「禁酒して下さい‼」と言われたら、とても辛いですよね。1日の疲れを癒すためや、仲の良い友人達との憩いの場に欠かせないですよね?※著者は1年でも10年でも禁酒指示されても生きていけます。 実は飲酒してもいいか?よく聞かれます。とても答えにくいのが正直なところです。まとめてみました。
抗がん剤と飲酒
お酒と薬の相性?
抗がん剤とお酒飲んで何が恐ろしいのか。それは肝臓の負担が強くなる事と抗がん剤の期待している作用以上の効果が発揮し、副作用が強く出現する可能性があります。 ってことは副作用に耐えられれば、効果ましまし?と考えちゃいますよね?実は違うんですよ。
抗がん剤の投与量の決め方
抗がん剤の投与量の決め方は、安全に投与できる最高用量を見定めて決定しています。これは臨床試験の第Ⅰ相試験という1番最初に投与される試験で検証されます。その試験に組み込まれる方は、超厳選された副作用に負けないであろう3人が登録されており、その方の限界点を持って見定めます。※効果が得られる最低用量で決定する事もあり、薬剤の種類にもよります。
抗がん剤の解毒方法
設定された抗がん剤の用量は、肝臓が壊す限界値を少し超えた量で設定されています。抗がん剤の用量は、飲み合わせが何もない環境下で、肝臓に壊されるのを前提に投与量を設計しております。肝臓によって壊された後、お小水や排便という形で大部分は分解され、解毒されています。 お酒の分解方法 お酒を飲むと胃で約20%、小腸で約80%吸収され、血液中に溶け込みます。小腸で吸収されたものは、門脈を通って肝臓に運ばれます。お酒を飲んだときに代謝される有害物質であるアセトアルデヒドは、体内の「ALDH(アルデヒド脱水素酵素)」によって分解されます。ALDHには、アルデヒドが低濃度のときに働く「ALDH2」と、高濃度にならないと働かない「ALDH1」があります。 「ALDH2」の活性が弱いか欠けていると、アセトアルデヒドが貯まりやすく、「お酒に弱い体質」と表現されます。
人種 ALDH2欠損率
- 日本人 44%
- 中国人 41%
- 韓国人 28%
- フィリピン人 13%
- タイ人 10%
- インド人 5%
- ハンガリー人 2%
- ナバホー人 (アメリカ原住民) 2%
- ドイツ人 0%
- イスラエル人 0%
- エジプト人 0%
- ケニア人 0%
- スウェーデン人 0%
- フィンランド人 0%
欧米人がお酒が強いというのは、分解酵素が欠損している人がいないからです。
出典:樋口進編 『アルコール臨床研究のフロントライン』より
抗がん剤分解とアルコール分解
アルコール専用の分解酵素では抗がん剤の分解に影響はないため、一見影響がないように見えますが、実はこのお酒を分解する先ほどのルート以外に、ある特別ルートがあったのです。
この2つの分解酵素は、抗がん剤の分解に大きく関わっています。 抗がん剤とお酒の相性 先程、抗がん剤の投与量は肝臓によって壊された量を計算して、少し余るように設計したとお話ししました。肝臓で分解されるには限度あり、ETCのように一定数しか通ることが出来ません。ただ血液中で渋滞を起こすことができないため、分解されず予定していた以上の抗がん剤と大量のお酒が全身を巡り、副作用は強くなるわ悪酔いもするわとなってしまいます。
では絶対禁酒か?
絶対と言い切らなくてもいいのでは?
私は薬剤師なので立場上「控えてください」としか言えません。ですが、今まで書いた内容は「仮に同時に摂取したことを想定して」記載しております。 「タイミングをずらして飲む場合とは異なります。」 抗がん剤が代謝された後であれば、大きな影響がないのでなかと思います。※大切なことはもう一度…私は薬剤師なので立場上「控えてください」としか言えません。
飲みすぎはやはりがんになりやすい?
男性では、アルコール摂取量が日本酒にして1日平均2合未満のグループでは、がん全体の発生率は高くなりませんでした。一方、飲酒の量が1日平均2合以上3合未満のグループでは、がん全体の発生率が1.4倍、1日平均3合以上のグループでは、1.6倍であったと報告されております。女性では、定期的に飲酒する人が多くないためか、はっきりした傾向がみられませんでした。
参考文献:国立がんセンター 社会と健康研究センター
飲酒+喫煙は、更にがんの発生率が高い
たばこを吸う人と吸わない人とに分けてみてみたところ、たばこを吸わない人では、飲酒量が増えても、がんの発生率は高くなりませんでした。ところが、たばこを吸う人では、飲酒量が増えれば増えるほど、がんの発生率が高くなり、ときどき飲むグループと比べて、1日平均2-3合以上のグループでは1.9倍、1日平均3合以上のグループでは2.3倍がん全体の発生率が高くなりました。
参考文献:国立がんセンター 社会と健康研究センター
治療始まってるんだけど…
治療が始まっている方では、どうでしょうか
だって報告がありませんから、立場上「控えてください」としか言えません。ですが、抗がん剤を実施していない日は、肝臓に負担がかかっておりません。たしなむ程度の飲酒であればいいのではないかと思います。私は抗がん剤を実施する日は避けるように指導します。さすがにγ-GTPが上昇してきたら、絶対禁酒ですが。
毎日飲まないといけない抗がん剤飲んでいます
この場合はとても困ってしまいます。毎日服用されている場合は、こればかりは禁酒をお勧めします。飲んだらダメとは言えるデータがありませんので、なかなか断言ができません。抗がん剤の多くは、CYP3A4を使用して分解され、アルコールと同じ分解酵素(CYP3A4)を使用します。連日服用する薬剤では、常用的に飲酒した場合には、分解される量が少なることから日に日に副作用が出現しやすくなる可能性が考えられます。
この薬だけは絶対ダメ
アルコールと禁忌(絶対ダメ危険です)というものがあります。
- 塩酸プロカルバジン(悪性リンパ腫など)
この薬剤は絶対に禁忌です。注意してください。
じゃあどうしたら安全なの?
私の一個人的な意見であることと、正確な情報をもとにお伝えできていない可能性がありますが、
- 抗がん剤投与日は絶対に避けることを推奨します。
- 休薬期間がある薬剤(3週間飲んで1週間休む)では休薬期間中にも血液中に残存しておりますが、休薬期間中の飲酒であれば、大きな影響はないのではないかと思います。
楽しみをすべて奪ってまで、抗がん剤治療を頑張る必要がないと私は思っています。普段通り生活ができているのが前提で、治療日があることを目指しています。普段の楽しみを奪わないよう医療従事者がマネジメントしてあげるのが求められる技術だと思っています。ぜひ相談してみてください。ちなみにですが、必ず飲酒に関しては医師に相談する必要がありますので、聞いてくださいね。
最後までご覧いただきありがとうございます。
読んでいただいた方が、より安全な抗がん剤治療を受けられるように願っています。また元気な時間を1日でも長く・楽しく・素敵な思い出を作れるよう、副作用を気にしないで生活できるように貢献できるよう情報を発信していきたいと思います。
薬剤師まさ